個人の確定申告は、毎年2月16日~3月15日の期間までに所轄の税務署へ提出することが必要です。
一定水準の記帳をして正確な申告を行う人には「青色申告」という確定申告の制度があります。青色申告をすることで、特定の優遇措置が受けられます。今回は、青色申告について説明します。
概要
所得税は、納税者が自ら税法に従って所得金額と税額を正しく計算し、納税する「申告納税制度」を採用しています。1年間の所得金額を正確に計算し申告するためには、収入や支出などの取引に関する情報を記帳し、その取引に関連する書類も保存しておく必要があります。所得税の節税につながる、青色申告はさまざまなメリットがあります。
青色申告の対象事業者
不動産所得や事業所得、山林所得がある事業者です。
① 不動産所得:アパートやマンションを人に貸している・資産運用でワンルームマンション等の賃貸収入による所得
② 事業所得:農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業の所得
③ 山林所得:山林・立木を伐採して譲渡する、立木のままで譲渡することによって生じる所得
青色申告を受ける前の準備書類と提出期限
青色申告を適用するには、下記の書類を事前に所轄の税務署へ提出する必要があります。
届出書 | 提出期限 |
---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書 | 1か月以内 ※新規開業時または開業の場合 |
所得税の青色申告承認申請書 | 青色申告しようとする年の3/15まで 新規開業の場合:2か月以内 |
青色事業専従者給与に関する届出書 (該当者が居ない場合は提出不要) |
青色申告しようとする年の3/15まで その年の1/16以後に青色事業専従者になった人がいる場合は、事業開始等の日か青色事業専従者になった日から2月以内に提出 |
※青色申告する事業者は、「所得税青色申告決算書」を確定申告書類と一緒に所轄税務署へ提出することになります。
各帳簿の保存期間について
青色申告の場合、通常は正規の簿記(複式簿記)による貸借対照表と損益計算書の作成が必要です。
下の表に保存対象となる書類とその保存期間をまとめました。
保存対象となる書類 | 保存期間 |
---|---|
・帳簿書類 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳など ・決算書類 損益計算表、貸借対照表、棚卸表、確定申告書など ・現金預金など取引関係書類 領収書、請求書、普通預金通帳など |
7年間 |
その他 ・納品書、見積書、注文書、送り状など |
5年間 |
青色申告のメリット
下記4つがあります。
1.青色申告特別控除
2.青色事業専従者給与
3.貸倒引当金の一括評価
4.純損失の繰越控除と繰戻還付
① 青色申告特別控除(最大65万円控除、最低でも10万円控除)
所得金額から55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円を控除するという青色申告特別控除があります。
次の表は、それぞれの控除を受けるための要件です。
項目 | 10万円控除 | 65万円控除 (または55万円控除) |
---|---|---|
所得種類 | ・事業所得 ・山林所得 ・不動産所得 |
・事業所得 ・不動産所得 ※山林所得は受けられない。 |
帳簿の方法 | 簡易簿記(現金式簡易簿記を含む)でも可 | 複式簿記 |
申告期限 | 申告期限に遅れても控除が受けられる | 各年度の確定申告期限までに提出 |
その他 | 特になし | 【65万円控除の場合】 電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告が必須 |
② 青色事業専従者給与
納税者が生計を一にしている配偶者や他の親族が、納税者が経営する事業に従事している場合、納税者はこれらの人に給与を支払うことがあります。一般的に、このような場合に支払われる給与は原則として必要経費にはなりませんが、青色申告では特別な取扱いが認められています。
青色事業専従者とは、次の適用要件すべてに該当する人です。
1. 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
2. 配偶者以外の親族に給与を支払う場合はその年の「12月31日現在で15歳以上」であること
3. 配偶者その他の親族が「通年6か月を超える期間」、青色申告者の営む事業に「専ら従事している」こと
4. 「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署に提出していること
5. 給与は届出書に「記載されている方法」「記載されている範囲内」で支給されること
6. 給与の額は「労務の対価」として相当であること
※白色申告の「事業専従者控除」と青色申告の「青色申告の青色事業者専従者給与」は併用できません。
③ 貸倒引当金の一括評価
貸倒引当金とは、回収不能が予測される売掛金などを事前に「貸倒引当金」(勘定科目)で必要経費として計上することです。
次の表は対象項目と対象外項目です。
貸倒引当金の対象 | 貸倒引当金の対象外 |
---|---|
売掛金、未収金、受取手形、事業上の貸付金 | ・一時的に生じた仮払金、立替金 ・保証金、敷金、預け金など ・手付金、前渡金、プライベートでの貸付金 |
【貸倒引当金の計算方法】(一括評価)
12月31日時点での売掛・貸付金などの合計額に5.5%をかけた金額を上限として貸倒引当金として計上出来ます。
計算式:(売掛金などの対象債権の合計額)×5.5/100=貸倒引当金 ※金融業の場合は、3.3%を乗ずる。
④ 純損失の繰越し控除と繰戻し還付
事業所得などに赤字(損失)が生じた場合、損益通算の規定を適用しても完全に控除できない部分の金額(純損失の金額)は、次のような方法で取り扱われます。
1. 繰越控除:純損失の金額(赤字)を向こう3年間まで繰越しが可能になります。
※提出書類として、「確定申告書の第一表」、「第二表」、「第四表(一)」、「第四表(二)」を作成して提出が必要です。
2. 繰戻還付:当年の赤字(損失)を、前年の黒字(利益)と相殺することが可能です。これにより、繰戻し還付の手続きを行うことで前年の納付した税金が戻ってくることになります。ただし、繰戻は前年度分の1年間のみ相殺可能です。
※提出書類として、欠損金の繰戻しによる「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」の提出が必要です。
まとめ
青色申告をすることで、多くのメリットがあるだけでなく、収支の流れをしっかり把握できることにつながるため、一石二鳥の制度だと言えます。まだ適用していない事業者は今後の青色申告も検討してみてはいかがでしょうか。