近年、相続に関するトラブルが増加傾向にあり、「争族」と呼ばれる事態を避けるために、遺言書の作成を検討される方が増えています。遺言書は、財産の分配を明確にすることで相続人間の争いを防ぐ有効な手段ですが、税務の観点からも慎重な検討が必要です。今回は、遺言書と税務の関係、そして税理士がどのようなサポートを提供できるのかについて解説します。
●遺言書の種類と特徴
遺言書には主に以下の3種類があります。
- ・自筆証書遺言:本人が全文を手書きする形式。手軽に作成できますが、形式不備による無効リスクがあります。
- ・公正証書遺言:公証人が作成し、公証役場で保管される形式。紛失や改ざんの心配がありません。作成数は近年増加傾向。
- ・秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま公証人に証明してもらう形式。利用は少なく、実務上はあまり一般的ではありません。
遺言書の形式を選ぶ際には、手間や費用だけでなく、税務上の影響も考慮することが重要です。
●遺言書と税務の関係
遺言書の内容によって、相続税の負担が大きく変わることがあります。たとえば、以下のようなケースです。
- ・特定の相続人に偏った財産分配:配偶者控除や小規模宅地等の特例が適用できない場合、相続税が増加する可能性があります。
- ・不動産の分割が困難な内容:共有名義になると、将来的な売却や管理が複雑になり、税務上のリスクが高まります。
- ・遺留分を侵害する内容:遺留分侵害額請求が発生すると、贈与税や譲渡所得税など、思わぬ税負担が生じることもあります。
このように、遺言書は単に「誰に何を渡すか」を決めるだけでなく、「どう渡すか」「税負担をどう軽減するか」を考える必要があります。
●税理士ができるサポート
税理士は、遺言書の作成そのものを代行することはできませんが、税務の専門家として以下のようなサポートを提供できます。
1. 相続税の試算と財産評価
遺言書の内容に基づいて、相続税の概算を試算し、どのような分配が最も税負担を抑えられるかをアドバイスします。特に不動産や非上場株式など、評価が難しい財産については専門的な知識が求められます。
2. 節税対策の提案
配偶者控除や各種特例の活用、生前贈与の組み合わせなど、税負担を軽減するための具体的な対策を提案します。遺言書と生前対策をセットで考えることで、より効果的な相続対策が可能になります。
3. 遺言執行後の税務申告支援
遺言書に基づいて財産が分配された後、相続税の申告や納税手続きが必要になります。税理士は、申告書の作成から税務署とのやり取りまで、スムーズな手続きをサポートします。
4. 他士業との連携
遺言書の作成には弁護士や司法書士、行政書士など他士業との連携が不可欠です。税理士は、税務の観点から必要な情報を提供し、円滑な連携を図ることで、より安心できる遺言書作成を支援します。
●まとめ:税理士の視点で「争族」を防ぐ
遺言書は、相続人の安心と納得を得るための大切なツールですが、税務の視点を欠いた遺言は、かえってトラブルや税負担を招くことがあります。税理士は、財産の評価や税額の試算、節税対策など、専門的な知識を活かして、より実効性のある遺言書作成をサポートします。
「遺言書を作りたいけれど、税金のことが心配…」という方は、ぜひ一度税理士にご相談ください。将来の安心のために、今できることを一緒に考えていきましょう。



