
退職所得における「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」の提出範囲が会社役員のみから令和8年1月から"すべての居住者"に変更になり従業員にも範囲が拡大されることとなりました。今回は「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」について解説します。
●退職所得とは何か?
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得のことを考える方が多いと思いますが、その他のものも退職所得として扱われるものがあります。各種共済などにより退職に基因して支給される一時金や確定拠出年金法(iDeCo)の所得なども退職所得とみなされます。また解雇予告手当や会社が破産した場合法律により労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。
詳しくは国税庁HPをご確認ください。
●退職所得の計算法
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2 = 退職所得の金額
※確定給付企業年金(iDeCo)・退職一時金などで、従業員自身が負担した保険料または掛金がある場合には、その支給額から負担した保険料・掛金の金額を差し引いた残額を退職所得の収入金額とします。
退職金は、勤務先に所定の手続をしておけば、源泉徴収で課税関係が終了しますので、原則として確定申告をする必要はありません。
※所定の手続きとは「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」の事業所(法人)への提出を指します。「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」とは、退職手当等の支給を受ける人(従業員)が、申告書に記載し、退職手当等の支払者(法人)に提出する手続です。
●退職所得控除とは?
退職金から引かれる税金を勤務年数により以下のように計算し、支払う所得税額を減らせるものです。
退職所得控除額の計算
勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A - 20年) |
計算例
(例1)勤続年数が10年2か月の人の場合の退職所得控除額
勤続年数は11年になります。(端数の2か月は1年に切上げ)
40万円×(勤続年数)=40万円×11年=440万円
(例2)勤続年数が30年の人の場合の退職所得控除額
800万円+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年=1,500万円
(1)「退職所得の受給に関する申告書」を提出している人
退職金等の支払者が所得税額および復興特別所得税額を計算し、その退職手当等の支払の際、退職所得の金額に応じた所得税等の額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。
(2)「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない人
退職金等の支払金額の20.42パーセントの所得税額および復興特別所得税額が源泉徴収されますが、受給者本人が確定申告を行うことにより所得税額および復興特別所得税額の精算をします。
(国税庁ホームページより)
●令和7年から令和8年の変更点について
退職金についての計算法などを解説してきましたが、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」についてです。これは、「給与所得の源泉徴収票」のようなもので、年末に提出する「法定調書合計表」に添付する書類のことです。退職手当の受給者が法人の役員の場合、①受給者交付用②税務署提出用③市町村提出分計3通を作成し交付・提出しなければならないものでした。法人の役員以外(従業員)には、受給者本人への交付だけでよかったのです。しかし、令和8年1月以降に退職金を支給される方については役員かどうか関係なしに退職後1か月以内に①②③すべてを提出しなければならなくなります。
●提出拡大による注意点
1. 事務負担の増加
これまで従業員の退職金については、受給者本人への交付のみで済んでいましたが、今後は税務署と市区町村への提出が必要となるため、企業の事務負担が増加します。
2. 提出期限の厳守が必要
退職後1か月以内に、本人への交付、税務署への提出、市区町村への提出を完了しなければならず、企業の対応が遅れると罰則の対象となる可能性があります。
3. 退職金支払日の影響
「退職日」ではなく「退職金の支払日」が基準となるため、例えば令和7年12月末に退職した従業員でも、退職金の支払いが令和8年1月以降であれば、新ルールの適用対象となります。
4. 企業の準備不足
これまで従業員の退職金に関する書類提出が不要だったため、企業によっては提出体制が整っていない可能性があり、早急な対応が求められます。
この改正により、企業は退職金の支払いスケジュールや手続きの流れを見直し、適切な準備を進めることが重要になります。対応が遅れると、税務処理のミスや罰則のリスクが高まるため、早めの対策が必要です。