年末調整は、給与取得者にとって身近な税務の手続きのひとつです。一年間に支払った所得税が実際に発生した税額と一致するかどうかを確認し、必要に応じて調整を行います。給与取得者は、年末調整を通じて、過去一年間の適正な所得と税金の額を確定し適切な納税を行うことになります。
今回は提出をスムーズに終わらせるための「年末調整の基本とよくあるミス」についてお話します。
年末調整の基本について
ではまず年末調整について基本的なことをご説明します。
しかし、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税の合計額は、必ずしもその人が1年間に納めるべき税額と一致しません。
このため、1年間に源泉徴収をした所得税および復興特別所得税の合計額と1年間に納めるべき所得税および復興特別所得税の額を一致させる必要があります。
この手続を年末調整といいます。」
—国税庁のホームページ (No.2662 年末調整のしかた)より引用
と国税庁のホームページでは書かれています。
つまり年末調整は、給与所得者が1年間に支払った所得税の過不足を調整するための手続きです。給与所得者は毎月の給与から所得税が源泉徴収されますが、年末にその年の総所得額や控除額を確定し、過不足を調整し徴収者へ還付(多く支払った税金が戻ってくる)または、追加で徴収(税金が足りないので追加で支払う)することになります。
年末調整の対象者について
年末調整の対象者は主に給与所得者の方になり「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している一定の人で、年末調整を12月に行う場合と、年の中途で行う場合とで違いもあります。
基本的には、年末調整を行っている方は、個人で確定申告する必要はありません。しかし、副業・兼業などで他に所得がある時や、医療費控除など年末調整で対応できない控除を受ける時は、就業している会社で年末調整をした上で、本人が確定申告を行う必要があります。
詳しくは、下記を参考にされてください。
(リンク先:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm)
(リンク先:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/01/1_06.htm)
年末調整で控除される項目
今回は詳しい説明を割愛しますが年末調整では主に下記の控除項目が考慮され計算がされます。各項目の概要を見てみましょう。
基礎控除 | 従業員の方の合計所得金額が2,500万円以下で、その従業員の方の合計所得金額に応じて最大48万円が控除を受けることができます。年末調整で適用を受けるためには、勤務先に「基礎控除申告書」を提出する必要があります。 | ||
---|---|---|---|
配偶者控除 |
従業員の方に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。
配偶者控除は、従業員本人の合計所得金額が1,000万円を超えると適用されません。 |
||
配偶者特別控除 |
従業員の配偶者が48万円を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられない場合でも、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除を受けることができます。
なお、配偶者特別控除は夫婦の間で二重に受けることはできません。 |
||
扶養控除 |
従業員の方に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。
控除対象扶養親族は、特定扶養親族、老人扶養親族または扶養親族の年齢、同居の有無等により控除額が決まります。 |
||
生命保険料控除 | 従業員の方が生命保険料、介護医療保険料および個人年金保険料を支払った場合に、一定の金額の所得控除を受けることができます。 | ||
地震保険料控除 | 従業員の方が特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合に、一定の金額の所得控除を受けることができます。 | ||
その他の控除 | 先に書いた控除の項目以外にも下記の控除項目があり、従業員の方が条件に該当する場合に加味して年末調整の計算を行います。
|
控除の項目によって、各申告書用紙の記入や控除証明書の添付が必要です。令和6年の年末調整では、「定額減税」「扶養控除等申告書の簡略化」「保険料控除申告書の一部記載不要」など変更点もあります。必要に応じて年末調整の担当者に記入方法を聞いて正確な記入をしましょう。わからない場合や判断に迷う場合は早めに相談することも必要です。
(リンク先:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2024/pdf/26.pdf)
国税庁ホームページ:給与所得者(従業員)の方へ(令和6年分)
(リンク先:https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/kyuyosyotokusya.htm)
年末調整手続きの主な流れについて
年末調整の主な流れは下記のように行われます。
1.扶養控除等申告書の提出:(給与所得者の方)
会社から給与をもらう人(給与所得者)が、給与について扶養控除などの諸控除を受けるために行う手続です。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、個人住民税の「給与所得者の扶養親族申告書」と統合したものとなっていますので、年初に扶養控除等申告書を提出することもあります。
2.保険料控除申告書の提出:(給与所得者の方)
会社から給与をもらう人(給与所得者)が、その年の年末調整において生命保険料、地震保険料などの保険料控除を受けるために行う手続です。
3.年末調整の計算:(給与計算担当の方)
給与担当者が年末調整の計算を行い、税額の過不足を調整します。
4.還付または追徴:(給与計算担当の方)
過不足がある場合、還付金を返す作業、追加で税金が徴収する作業が行われます。
年末調整でよくあるミスについて
各申告書を間違ったまま提出してしまい、修正が間に合わなかった場合などは、自分で確定申告をして、修正をすることになります。
確定申告となると、その全ての手続きを自分自身でおこなうことになり、年末調整のみで完了させるよりも、余計な時間や手間がかかるので正確な記入を心掛けましょう。下記に間違いの起こりやすい事例を挙げてみましたので参考にされてください。
◎申告書の記入ミス !
扶養控除等申告書や保険料控除申告書の記入ミスは、誰にでもよくあることです。
特に、扶養家族情報などの記入もれや誤記入、保険料の金額を間違えるなど色々なことが考えられます。正しい情報を申請書に記入することで、正確な控除額や税金額の計算が可能になります。記入し終わった後には、記入漏れや記入ミスが無いかもう一度確認をしてみましょう。
◎控除証明書の提出忘れ!
毎年10月、11月頃に保険会社等から控除証明書が届きます。証明書は、生命保険料控除や地震保険料控除を受けるために、各届出と一緒に提出する必要があります。添付を忘れたり、失くしてしまったりすると、控除が適用されませんので証明書は大切に保管しておきましょう。
◎扶養家族の変更を反映しない!
年の途中で扶養家族が増えたり減ったりした場合、その変更を申告書に反映しないと、正しい控除が受けられません。記入漏れがないかを確認しましょう。
◎所得金額の誤り!
年末調整では、総支給額を正確に把握しないとその後の計算も正しく行えません。給与計算の担当者が把握しており、記入しなくてよい場合もありますが、自分で記入する場合は各種控除後の手取り金額で記入しないように気を付けましょう。
また、年末調整では勤務先からの給与収入のみで計算します。二か所以上の給与や副業での収入は含みません。確定申告を行う要件に該当する場合は、別途忘れずに申告を行いましょう。
◎控除額の計算ミス!
各種控除額の計算ミスもよくあるミスのひとつです。特に、生命保険料控除や地震保険料控除の計算は旧生命保険料と新生命保険料の計算方法が違うなど複雑な場合があるため注意が必要です。申告用紙などでよく読み、計算方法を調べておきましょう。よくわからない場合は、担当者に疑問点を確認してから記入しましょう。
年末調整をスムーズに行うためのポイント
早めの準備
年末調整の書類は早めに準備し、必要な情報を正確に記入することが重要です。特に、保険会社から送られてくる控除証明書や扶養家族の情報を事前に確認しておきましょう。そうすることで給与担当者からの問い合わせがあった時にも落ち着いて対応することができます。
給与担当者との連携
年末調整は給与担当者が行うため、疑問点があれば早めに相談することが大切です。特に、控除項目や計算方法について不明な点があれば、確認しておきましょう。
控除証明書の管理
生命保険料控除や地震保険料控除の証明書は、前もって保険会社から送られてくることが多いため、紛失しないよう注意しましょう。必要な場合は再発行を依頼することもできます。
変更点の反映
年の途中で扶養家族が増えたり減ったりした場合、その変更を後回しにせず速やかに申告書に反映させることが重要です。これにより、常に正しい情報が更新されることにより正確な控除が受けられます。
正確な所得の把握
前もって正確な所得を把握し、正しい情報を申告用紙に記入することが大切です。これにより、過不足のない年末調整が行えます。また、年末調整だけでいいのか、確定申告が必要なのかなど事前に知っておくことで、準備や対応が迅速にできます。
年末調整の基本とよくあるミスまとめ
年末調整は、給与所得者にとって最も身近であり重要な税務手続きの一つです。
どのような手続きが必要で、どのような情報を準備または記入しなければならないのかなど事前準備が大切になってきます。前もって準備することは、正確で迅速な申告書記入につながり、年末調整の作業をスムーズに終わらせることができます。
副業・兼業などで他に所得がある時や、医療費控除など年末調整で対応できない控除を受ける時は、就業している会社で年末調整をした上で、本人が確定申告を行う必要があるので適切な対応も忘れずに行いましょう。