社会保険の加入条件を満たした事業所または法人は必ず社会保険に加入しなくてはなりません。今回は、その社会保険の中の健康保険について、健康保険の仕組みや種類、その違いを説明します。
「社会保険(健康保険)」はさらに、「組合健保(各健康保険組合が運営)」と、「協会けんぽ(全国健康保険協会が運営)」に分かれています。会社勤務者およびその扶養家族は、組合健保または協会けんぽに加入することになります。
それ以外の方(自営業者、農業・漁業従事者、無職の人など)は、市区町村や国保組合が運営する国民健康保険に加入することになります。
健康保険とは
日本では、必ず健康保険に加入しなくてはならない「国民皆保険制度」が採用されています。健康保険制度はその一環として運用されており、国保と呼ばれる「国民健康保険」と社保と呼ばれる「社会保険(健康保険)」の2つに分けられます。
健康保険制度の仕組み
健康保険は、怪我や病気によって治療を受けたときなどに、給付や手当金を支給する国民全員が適切な治療を受けられるようにするものです。現在、被保険者等は実際にかかる医療費の3割だけを負担し、残り7割は保険の運営団体が医療機関等に支払う形になっています。負担割合は国民健康保険も社会保険(健康保険)も同じです。※年齢や所得の状況によって医療費の負担割合がそれぞれ変わります。
社会保険(健康保険)への加入義務
合同会社や株式会社といった法人は、従業員の人数に関係なく社会保険の強制適用事業所となり、社長ひとりの会社でも社会保険への加入が義務付けられています。
個人事業所の場合は、従業員を5人以上常時雇用している事業で、以下の事業を営んでいる場合に強制適用されます。
・製造業
・鉱業
・土木建築業
・電気ガス事業
・清掃業
・運送業
などの業種が強制適用の対象です(飲食店、接客業、理・美容業、旅館業等 サービス業は除く)。ただし、サービス業でも税理士をはじめ、公認会計士、弁護士、司法書士など10の士業については強制適用業種となります。
違反した場合は、年金事務所から指導が入り、6ヶ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金、過去2年間に遡及して保険料を徴収される場合があります。
健康保険組合
健康保険組合の運営母体は大企業がほとんどで、企業単独(単一型健保組合)またはグループ等の複数の単位(総合型健保組合)で設立する場合に分けられ、都道府県別に存在する協会けんぽとは全く別の組織となります。
単一型健保組合は勤務する被保険者が常時700人以上、総合型健保組合では被保険者が合計3,000人以上であることが要件となります。また、実際に設立させるには、設立しようとしている事業所で、勤務する被保険者の半数以上の同意(事業場が2以上の場合には各事業所の半数以上の同意)が必要となり、さらには厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。
健康保険組合と協会けんぽの違い
健康保険組合と協会けんぽの違いは以下の通りです。
① 保険料
協会けんぽの健康保険料は労働者と会社の労使折半となっています。保険料率は都道府県それぞれで定められており、会社の所在地の都道府県によって決まります。ちなみに、令和6年3月以降の協会けんぽの全国平均の保険料率は10%程度です。一方、健康保険組合の保険料率は一定の範囲内(3%~13%の間)で組合が自主的に決定でき、かつ、労使の負担割合も独自に決定が可能となります。一般的に健康保険組合の保険料率の方が、協会けんぽの保険料率よりも低い傾向にあります。
② 付加給付
協会けんぽでも健康保険組合でも健康保険が適用される場合、その医療費は受診者が3割負担、健康保険組合が7割を負担する点は同じです。このような健康保険法で定められている給付を法定給付といいます。対して、健康保険組合の場合には、自主的に設定する「付加給付」という制度が認められています。法定給付を超えた給付が可能となり、組合員への福利厚生を手厚くすることが出来ます。
③ その他
健康保険組合の場合には独自に福利厚生を行うことが可能です。例えば、保養所の設置、スポーツクラブ等の利用料の割引、スポーツ大会の実施等があります。
注意点
すでに述べた通り、組合健保は協会けんぽより安価な保険料を設定することや付加給付の設定が可能です。反対にデメリットとして、多くの組合が赤字経営に陥っており、財政が不安定といえるでしょう。
一方、協会けんぽは厚生労働省所管の特別の法律により設立された法人であり、健康保険組合と比較すると協会けんぽの方が安定しているともいえるでしょう。健康保険組合への加入要件を満たしている場合でも、必ずしも健康保険組合がいいとは限らないことを意識しておきましょう。
まとめ
健康保険への加入は会社として避けられません。会社設立時には恐らく協会けんぽに加入する場合がほとんどだと思います。一方で、健康保険組合の方が従業員等にとってメリットが大きい場合もあります。その場合は、その健康保険組合の内容・財政状況等をしっかり確認し、いずれが自社にとってメリットが大きいかを検討し正しく対応するようにしましょう。